刑事事件の処分(起訴・不起訴)の地域差
02.示談の豆知識11.盗撮目次
起訴されやすい地域・されにくい地域は存在する?
何か犯罪行為に及んでしまったとき。
警察の捜査を経て、最終的に検察官が
起訴 または 不起訴
の刑事処分を決めます。
起訴か不起訴かを決める権限は各検察官にあるので、処分がどう転ぶか微妙な事案では
検察官の個性・性格によって処分が左右される
ということが普通に発生します。
実は「地域(エリア)」でも同様の現象があり、最初にハッキリ言ってしまうと
ほぼ同じ事案であっても
起訴されやすい地域 と 起訴されにくい地域
というものが明確に存在しています。
統計データから見る捜査方針の偏り
士道法律事務所は刑事事件に強い弁護士が在籍する法律事務所です。
中でも刑事示談交渉を得意としており、不起訴処分を目指すことに特化しています。
この記事の作成時点(2025年5月)において、過去に取り扱った刑事示談交渉の事案は
計300件
これを私、士道法律事務所の代表弁護士・飯島充士がたった一人で処理してきています。
士道法律事務所は大阪に本拠を構える法律事務所なので大阪の事件が圧倒的に多いのですが、
これだけの件数を取り扱っていると大阪府外の
兵庫・奈良・和歌山・京都
といった近畿圏の刑事事件もそれなりの数が集まってきます。
近畿圏の外からも、例えば東京や名古屋や神奈川の管轄の刑事事件も一定数持ち込まれています。
そうすると、地域による明らかな傾向の差が統計データから浮き上がってくるのです。
性犯罪に厳しい地域は?
先にサクッと結論を述べてしまいましょう。
近畿圏において性犯罪に厳しい態度を取っている地域は
奈良 と 和歌山
です。
処分の地域差をチェックするには、
①刑事事件としての発生件数が多い罪名の事案
②犯行態様や被害の程度にほとんど差がない事案
を見ればよいことになります。
①事件数が多い方が統計データが揃いやすくなるからで、
②内容に大きな差があっては公平な比較とならないからです。
これにズバリ該当する罪が
盗撮(性的姿態等撮影罪)
です。
士道法律事務所の過去事例においては、全受任事件の
約21.2%
を占める最多罪名で(次点は約14.4%の「不同意わいせつ」)、
しかも内容や人的属性は
・駅や商業施設でスカート内にスマホ(録画状態)を差し入れるという犯行態様
・被害者は20代~40代の女性
・加害者は20代~40代の男性
・前科や前歴はない
・余罪(過去の発覚しなかった他の盗撮)はたくさんある
というものがほとんどなので、地域差比較に最も適した罪ということになります。
これで地域差を見てみると、
大阪管轄の事件に比べて奈良・和歌山管轄の事件は刑事の処分(処罰)が明らかに重い
という傾向が見て取れます。
現代の盗撮は『理論上』過去の余罪全てが立件可能
盗撮というのは潜行性の高い犯罪です。
密かに盗み撮りをするという犯罪なので、被害者が盗撮の被害に気付いていないということが珍しくありません。
それにより何が起こるかと言うと
盗撮で捕まった人は「それが人生初の盗撮だった」という事態がまず起こらない
つまり
過去に何度も盗撮をしていてスマホに過去の盗撮データが残っている(余罪がある)のがほとんど
ということになります。
盗撮で捕まればスマホを押収され、スマホの中身は必ず警察署でチェックされます。
ここで過去の余罪が一気に明らかとなります。
どこの警察署でもこの捜査は必ずやります。
文明・科学技術が発達したことによって盗撮はスマホによるデータ記録というお手軽な犯罪になりました。
データなので、盗撮画像・映像を確認すれば盗撮をした日時と場所がバッチリわかります。
したがって、『理論上は』過去の余罪全部を立件することが可能となります。
しかし、この先は地域によって対応が分かれてきます。
大阪府警の管轄による盗撮事件の場合
大阪で発生した盗撮事件の場合、(基本的に)捜査の対象となるのは
捜査開始のきっかけとなった最後の盗撮事件のみ
です。
スマホやPCのHDDに残された盗撮データに絡む
過去の余罪は原則として立件の対象とされません。
その理由まではさすがに明確に確認が取れているわけではありませんが、
過去の盗撮の余罪にいちいち取り合っていたら仕事が回らないから
であると推測されます。
実際、大阪府内のいくつかの警察署では、
操作が開始してから1年とか2年とかが経っても送検がなされない
という事態が発生しています。
具体的には心斎橋や難波といった大阪ミナミの繁華街エリアを管轄する東警察署とか南警察署とかなのですが、
・2023年5月に発生したごくごく普通の盗撮事件
・同じ5月に士道法律事務所で示談交渉を受任
・翌6月には示談を取りまとめて警察署に報告
あとは送検さえされればほぼ100%不起訴になることはわかっているのですが……
示談完了から約2年が経った2025年5月時点でまだ送検がされていないという事件があります。
弁護士からは定期的に警察に送検状況を問い合わせていますが、
「古い事件から順に処理しているので……事件数の割に人手が足りんのですよ」
と愚痴混じりに謝られています。
ちなみに、大阪キタ・梅田を管轄する曽根崎警察署は事件数が多く士道法律事務所に持ち込まれる事案も多いのですが、
こちらは十分な警察官の人員を確保しているのか、そこまで事件処理が遅くなるということはないです。
若干脱線しましたが、重要なのは
大阪の盗撮事件で問題視されるのは最後の事件だけで、余罪は基本無視される
ということです。
奈良県警・和歌山県警の管轄による盗撮事件の場合
これに対して、奈良や和歌山で発生した盗撮事件の場合は処理方針が全く異なります。
端的に言うと、
過去の余罪も含めて可能な限り立件してこようとしてくる
ということです。
過去実際にあったケースをいくつかご紹介します。
ケース1 ショッピングセンターで4人を盗撮
【事案の概要】
奈良にあるショッピングセンターを訪れた加害者は、まず一店舗目で2名の女性を盗撮しました(被害者A、被害者B)。
その後場所を変え、二店舗目で2名の女性を盗撮しました(被害者C、被害者D)。
この二店舗目で盗撮が発覚し、その場で取り押さえられました。
捜査の結果、被害者Cと被害者Dは特定されて警察の事情聴取を受けましたが、被害者Aと被害者Bは特定することができず警察の事情聴取も実施されませんでした。
【示談交渉の経過等】
士道法律事務所が示談交渉を受任し、まず警察署に示談交渉希望の旨を伝えました。
後日被害者Cの連絡先が開示され、完全な形の示談を取りまとめました。
一方被害者Dは、
「これ以上事件に関わりたくない」
とのことで弁護士との示談交渉を希望せず、ただし被害届を自発的に取り下げました。
被害者Aと被害者Bについては、そもそも警察の方でもどこの誰かを把握できていないので、示談交渉自体が全く不可能でした。
【刑事処分の結果】
被害者Aと被害者Bの事件について起訴(公判請求)がなされました。
ケース2 コンビニで1人、駅で2人を盗撮
【事案の概要】
何度か盗撮を繰り返していた加害者が奈良県内のコンビニで成人女性を盗撮(被害者A)。
後日警察署から呼び出しがあり、スマホを押収されました。
【示談交渉の経過等】
士道法律事務所に相談が寄せられ、示談交渉を受任することになりました。
警察を通じて示談の打診をしたところ、被害者Aは交渉自体を拒否。
しかし、過去の余罪について被害者2名を特定できたとのこと(被害者B、被害者C)。
この被害者Bと被害者Cの連絡先は開示され、いずれとも完全な形の示談を取りまとめることができました。
【刑事処分の結果】
被害者A、B、C、D、E、Fの事件について起訴(公判請求)がなされました。
上記二件の解説
まず【ケース1】について。
同じ日、同じショッピングセンター内という近い場所ではありますが、2つの機会に分けてなされた盗撮です。
身元が特定された被害者2名のうち、1名(被害者C)とはキッチリ示談を取りまとめました。
もう1名(被害者D)は連絡先が開示されず交渉自体は不可だったのもの、自発的に被害届を取り下げてくれたという状況。
大阪基準で考えれば余裕で不起訴のケースです。
しかし、結果としては
警察の方でも身元を特定できなかった被害者A、Bについて起訴
となりました。
しかも内容状況的には「略式起訴(罰金確定の書類だけの裁判)」でもおかしくないところ、まさかの公判請求です。
「え、何でこれで公判請求?」
というのが当時の率直な感想でした。
次に【ケース2】について。
これを読んだ人は
「ん? 被害者D、E、Fってどこから出てきた?」
と思うでしょう。
起訴状の写しを受け取ったとき、私も同じことを思いました。
盗撮事件において、一番最後の被害者は被害届を出す人物であることが多いので特定は容易です。
一方過去の余罪の被害者は被害に気付いていないことがほとんどです。
防犯カメラ映像リレーで被害者を特定することも可能は可能ですが、かなり手間がかかります。
ではこのときの奈良県警はどうやって被害者を特定したのか?
被害者B、被害者Cに教えてもらって確認できたところによると、
・この加害者は加害者の全身ショットを撮影してからスカート内を盗撮していた
・被害者Bと被害者Cは女子高生だった
・警察官は被害者Bと被害者Cの制服から通っている高校を特定した
・その上で学校の教師に全身ショットの写真を見せて「こういう(顔の)生徒はいるか」と尋ねた
ということをやったそうです。
これらの事件の捜査手法や処分結果を聞いたときの私の率直な感想、
「えぇ……そこまでやる?」
というものでした。
特にケース2の方、盗撮自体は卑劣な犯行で、被害者の「盗撮された」という精神的苦痛は示談、解決金で慰謝されて然るべきではありますが。
そういう被害に遭ったということを認識することなく静かに暮らしていた十代の女の子に対して、
「君、こういう被害に遭ってたから。被害についての話聞かせてもらえる?」
と無遠慮に踏み込む。
しかも特定のためによりにもよって学校の先生に問い合わせているわけで。
被害者の親御さんと示談交渉をしているとき、
「学校の先生に盗撮被害に遭ったこと知られてしまって被害者の子大丈夫かな……」
ということを考えていました。
このように色々思うところはありますが。
ひとまずこの記事の趣旨として重要なのは、
奈良や和歌山の警察・検察は徹底的に過去の余罪も何とか起訴しようとしてくる
ということです。
まとめ
ここまでの記事をまとめると次のようになります。
・刑事事件の捜査の厳しさや処分(起訴・不起訴)には地域差がある
・盗撮(性的姿態等撮影罪)で地域差は顕著に表れる
・近畿エリアでは大阪や兵庫は捜査や刑事処分が緩め
・一方で奈良や和歌山は徹底的に捜査して厳しい処分を科してくる
ちなみに、どこの警察、検察の管轄になるかということを決めるのは原則として
発生現場(何県で起きた事件か)
です。
特に盗撮(性的姿態等撮影罪)の場合、事件が発覚したら被害者は基本的に駅員や警備員に被害申告をして、そのまま事件現場を管轄する警察署に連絡が行くためです。
最後に、くれぐれも勘違いのないように言っておきますが、この記事は
「盗撮をするなら厳しい奈良や和歌山より緩い大阪がオススメ」などと言っているわけではありません。
盗撮はれっきとした犯罪です。
撮られたという事実自体に気付いていない被害者が多いとはいえ、盗撮は
「自身の性的部分を見られたくない、見せるとしても見せるべきタイミングや相手は自分で決めたい」
というプライバシー、自己決定権をないがしろにして踏みにじる行為であり、被害に遭ったことを知った被害者は深く傷つきます。
被害に遭って以降、
「また盗撮されるんじゃないか」
と電車に乗るのが怖くなったり、帰宅ルートや住居を変えざるを得なくなる人もいます。
盗撮をしてしまったとき、加害者が遅ればせながら自分のしたことの悪辣さに気付き、
「とんでもないことをしてしまった」
「ぜひ被害者に謝罪、償いをしたい」
「できたら刑事罰、前科を避けたい」
と言うのであれば私はそのお手伝いをします。
ですが、
示談をしたからといって確実に不起訴になるわけではない
状況(エリア)によってはいきなり公判請求もある
という現実があり、
だから盗撮が癖になっている人は今すぐ止めましょう
というのがこの記事で一番伝えたいことです。
ただ、やってしまったことは今さら取り返しがつきません。
盗撮その他の犯罪に手を出してしまって被害者との示談を希望するという方は一度お問い合わせください。
士道法律事務所があなたの人生を立て直すためにのお手伝いをします。
【罰条等】
性的姿態撮影等処罰法
(性的姿態等撮影)第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為2 前項の罪の未遂は、罰する。
3 前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。(性的影像記録提供等)第三条 性的影像記録(前条第一項各号に掲げる行為若しくは第六条第一項の行為により生成された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)その他の記録又は当該記録の全部若しくは一部(対象性的姿態等(前条第一項第四号に掲げる行為により生成された電磁的記録その他の記録又は第五条第一項第四号に掲げる行為により同項第一号に規定する影像送信をされた影像を記録する行為により生成された電磁的記録その他の記録にあっては、性的姿態等)の影像が記録された部分に限る。)を複写したものをいう。以下同じ。)を提供した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。2 性的影像記録を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(性的影像記録保管)第四条 前条の行為をする目的で、性的影像記録を保管した者は、二年以下の拘禁刑又は二百万円以下の罰金に処する。(性的姿態等影像送信)第五条 不特定又は多数の者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。一 正当な理由がないのに、送信されることの情を知らない者の対象性的姿態等の影像(性的影像記録に係るものを除く。次号及び第三号において同じ。)の影像送信(電気通信回線を通じて、影像を送ることをいう。以下同じ。)をする行為二 刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為三 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは不特定若しくは多数の者に送信されないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等の影像の影像送信をする行為四 正当な理由がないのに、十三歳未満の者の性的姿態等の影像(性的影像記録に係るものを除く。以下この号において同じ。)の影像送信をし、又は十三歳以上十六歳未満の者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、当該十三歳以上十六歳未満の者の性的姿態等の影像の影像送信をする行為2 情を知って、不特定又は多数の者に対し、前項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像の影像送信をした者も、同項と同様とする。3 前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。(性的姿態等影像記録)第六条 情を知って、前条第一項各号のいずれかに掲げる行為により影像送信をされた影像を記録した者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。2 前項の罪の未遂は、罰する。