示談することで被害者側にはどんなメリットがありますか
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最大のメリットは「時間・労力・費用をかけずに損害を補填できること」です。「自分の中で一区切りつけて前に進めること」もメリットの一つです。
- ・加害者側の弁護士と何度か電話で話をする
- ・郵送された合意書に署名押印してポストに投函する
- ・後日検察官からの問い合わせ電話に応える
詳細な回答
示談の被害者側の最大のメリットは
「弁護士と話をして合意書にサインするだけで結構な額のお金が手に入ること」
です。
士道法律事務所が示談交渉を行う場合、被害者がすべきことは
基本的にこれだけです。
これだけで約束の解決金が指定した口座に入金されます。
時間も労力も費用も大してかけずに数十万円のお金をあっさり手に入れられるというのは実は物凄いことです。
たまに被害感情の強い被害者から
「こちらの要求額は〇百万円、応じないなら示談しない、お金は民事裁判で取り立てる!」
と言われることがあるのですが。
残念ながら裁判実務のことを知らなさすぎと言わざるを得ません
例えば、駅でスカート内の下着を撮影される盗撮被害に遭い、加害者の弁護士から「30万円」での示談を提示され、これを断ったというケースを想定してみましょう。
まず「『示談すれば絶対に不起訴になる』というわけではない」のと同じ理屈で、「『示談できなければ絶対に起訴される』というわけでもない」ということに注意が必要です。
被害者が厳罰を期待して示談を断ったとしても、全体の事情を考慮して検察官が不起訴の判断を下すことはあります。
つまり事案によっては示談を拒否したことで被害者はお金を手に入れられず、加害者はお咎めなしで終わった、という事態があり得るということです。
次に「示談で簡単にお金を回収できるのは起訴か不起訴かの処分が決まる前までの短い期間に限られる」ということを意識する必要があります。
示談がまとまらないまま処分期限が到来し、検察官が『起訴』の処分を下したとしましょう。
この場合、加害者の心理は「これで刑罰を受けることが確定したなら今さら示談なんかしなくていい」となります。
逆に検察官が『不起訴』の処分を下したとしましょう。
この場合、加害者の心理は「示談しなくても無事に不起訴になったんだから今さら示談なんかしなくていい」となります。
よほどの重大事件で示談しなければ厳罰が予想されるというケースでない限り、起訴か不起訴かが決まった時点で加害者の示談に向けた動機は失われるというわけです。
起訴にせよ不起訴にせよ、処分が決まった後になってから被害者が
「やっぱり30万円で示談してもよい」
と態度を変えたとしても今度は加害者の方が示談を拒否します。
そして「民事裁判で相手方からお金を実際に回収するにはかなりの時間と手間と費用と幸運が必要」です。
最初のハードルは「加害者の住所・氏名をどうやって知るか」です。
これがわからなければそもそも提訴ができません。
公示送達という手もありますが、これをやると今度は回収のハードルが一気に上がります。
次のハードルは「弁護士費用をどうするか」です。
裁判自体は一般の人でもできますが、弁護士を入れないと最初のハードルすら越えられないことが多いので、結局弁護士に民事裁判を依頼することになります。
着手金は事務所によりますが、どんなに安くても10万円、訴訟も意識するなら20万~40万円程度は求められるでしょう。
3つ目のハードルは「裁判の手間をどう考えるか」です。
準備書面の作成や裁判期日の対応は弁護士に任せられますが、書面のチェック、弁護士への事実関係の説明、証拠の準備、法廷での証言等は被害者本人が行わなければなりません。
一般的な事件なら終結まで半年から一年程度、こういった手間が続きます。
最後のハードルは「どうやって現実にお金を回収するか」です。
勝訴判決を取ること自体はさほど難しくありません。
単純な盗撮事件であれば、民事裁判での認容額は下着の盗撮で10~30万円、トイレ等での裸体の盗撮で20~40万円、性行為の盗撮で30~50万円といったところです。
要するに、盗撮の事実をきちんと立証できるなら(刑事事件化しているなら簡単に立証できるはずです)勝訴判決自体はさほど難なく得られます。
ただし。
判決を取れば自動的にお金が入ってくるわけではありません。
判決まで行ってしまったようなケースでは通常「強制執行」を検討することになります。
「強制執行」をするには被害者の方で加害者名義の不動産や預金や勤務先等の情報を特定して、差し押さえるものに応じた所定の手続を一つずつ踏んでいく必要があります。
そこまでやっても判決の認容額を現実に回収できるケースはほとんどありません。
たまたま相手方が抵当権のついていない土地建物を持っていたとか、大企業に勤めていて給与を差し押さえることができるとかでなければ強制執行は空振りに終わります。
ここまでの仕事を弁護士に依頼したとして、ここで例に挙げた盗撮の事例だと弁護士費用は安く見積もって60万円といったところでしょうか。
被害者が払った弁護士費用(の一部)を加害者に負担させる(という判決を得る)ことは可能なのですが、回収できなければ絵に描いた餅に過ぎません。
このように、民事裁判でお金を回収するというのは一般の人がイメージするより遥かに面倒で手間も時間も費用もかかることなのです。
そのため、少なくとも「示談の申出を蹴って民事裁判で回収する」という方法は全く推奨できないということになります。
こういった実利的な面以外にも、示談には
「気持ちの面で一区切りつけて事件後の新たな一歩を踏み出す」
という効用もあります。
理不尽に被害に遭ったという事実、それを自分の中でどう処理するかは人それぞれです。
「示談交渉も含めて加害者と一切関わらず早く事件のことを忘れてしまう」
というのも一つの方法だと思います。
けれどもそれで完全に消化しきれる人ばかりではありません。
何かで事件のことを思い出してしまったときに、示談を受けて明確な区切りをつけておけば
「被害を受けたことは嫌だったけどもう完全に終わったことだ」
「お金をもらっても納得はしないけれど被害の補填にはなった」
「加害者に確実に経済的なダメージを与えることはできたんだ」
というように気持ちを整理することも可能になります。
示談は「お金で全てをなかったことにする狡い仕組み」ではありません。
人類が長い歴史の中で生み出してきた有用な知恵の結晶の一つです。
そういったことを考えれば示談に対するイメージも少し変わるかもしれません。