示談すると絶対に不起訴になるのですか
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「絶対に」不起訴になる、というわけではありません。しかし前科があるとか重大事件であるとかでなければ高い確率で不起訴となることが期待できます。
詳細な回答
痴漢や盗撮、強制わいせつ、児童買春(援助交際、パパ活)、淫行、窃盗、器物損壊、暴行・傷害などなど。
これらの犯罪行為に手を染めた場合、その事実が捜査機関(警察)の知るところとなるとその時点から捜査が開始します。
捜査開始のパターンとして一番多いのは
・被害者からの被害届を受けて事情聴取を行う
というものです。
それ以外では
・通行人が盗撮犯を取り押さえて(現行犯人逮捕)身柄を警察に引き渡した
・タレコミを受けて内偵を行った上で逮捕状を請求して被疑者を逮捕した
・警察官が警邏中に犯罪事実を把握して職務質問から任意同行を求めた
といったパターンがあります。
いずれであっても、また逮捕・勾留といった身柄拘束があるかないか(在宅捜査)を問わず、どこかの段階で警察官は被疑者に対する取調べを行います。
その他、被害者や目撃者からの事情聴取、犯行現場の実況見分等を行って捜査がひと段落つくと、捜査資料ごと事件が検察庁(検察官)に送られます。
これを検察官送致(送検)と言います。
ちなみにニュース等で時々耳にする「書類送検」というのは、被疑者を逮捕・勾留せずに在宅での取り調べを行っている状態でそのまま書類上で送検の手続を取ることです。
警察から事件の送致を受けた検察官は、自らも被疑者や被害者を呼び出して話を聞いたりして捜査を進めます。
そして最終的にこの検察官がその事件の処分をどうするかということを決めるのです。
処分の種類は大きく分けて二つ。
一つは公判請求を行って有罪判決を目指す「起訴」。
もう一つは起訴を止めたり見送ったりする「不起訴」。
さらに細かい分類もありますが、とりあえずはこの二つがあると考えておけば足ります。
起訴となればほぼ100%有罪判決が下され前科持ちとなることは避けられませんので、被疑者の心情としては普通は「不起訴」を目指したいということになります。
検察官が起訴か不起訴かを判断するときにはその事件に関するあらゆる事情を考慮します。
罪名、被害の程度、犯行に至る経緯、悪質性や計画性の有無程度、被害者の処罰感情などなど。
被疑者に前科(過去に刑事裁判で有罪判決を受けた履歴)や前歴(刑事裁判は受けていないが何らかの犯罪について警察で取調べを受けた履歴)があれば、これもマイナスの事情として作用します。
こういった考慮要素の中の一つに
「被害者と加害者(被疑者)との間で示談が成立しているか」
ということも挙げられます。
つまり「示談の成否」は検察官が起訴・不起訴を決めるための一要素に過ぎないので、「示談がまとまれば絶対に不起訴になる」わけでも「示談がまとまらなければ絶対に起訴される」わけでもない、ということになります。
もっとも示談の成立が不起訴に向けて与えるプラスの影響力は『かなり大きい』です。
あくまで目安程度にということではありますが、例えば
・性犯罪(盗撮、痴漢、強制わいせつ、強制性交、児童買春、淫行)
・被害額がそこまで巨額でない財産犯(窃盗、業務上横領)
・怪我の程度が小さい粗暴犯(暴行、傷害)
・その他犯罪態様自体が軽微なもの(名誉棄損、脅迫、住居侵入、器物損壊)
であって、
・前科や前歴がない
・前科や前歴があっても1~2件程度
・前科や前歴があっても前回の犯行から何年も経っている
とかであれば、きちんと示談がまとまればそれなりに高確率で不起訴処分が見込めるということになります。
一方、
・被害の程度が大きすぎる
・前科・前歴や余罪が多過ぎる
といった事情がある場合には示談が成立していたとしても起訴されることがあります。
ただし、示談が成立していることはきちんと考慮されます。
具体的には、起訴は起訴でも罰金刑が確定している略式手続(略式起訴)になったり、公判請求(いわゆる普通の刑事裁判)になったとしても求刑を減らしてもらえるといったプラスの効果は期待できます。
このあたりについては法律相談の際に弁護士が詳しい事情をお聞きして、示談自体がまとまる見込み、示談がまとまったとして不起訴が望めそうか否かということをお答えします。
最後に、念のための注意喚起ですが、ここで説明しているのは、
「『ちゃんとした』示談が成立して、正しい手続を取った場合」
の話です。
弁護士を入れずに素人の勝手な考えで示談してしまった場合や、刑事示談にあまり詳しくない弁護士に示談をまとめてもらった場合、
本来なら不起訴が十分期待できたはずなのに不適切な示談だったせいで起訴された
ということが起こり得ます。
実際に過去の事例で、
「自分で示談をまとめたら警察に『これでは駄目』と言われた」
「弁護士のアドバイスだけ受けて自分で示談したら起訴された」
という相談が士道法律事務所に持ち込まれたこともあります。
示談は正しく締結すれば不起訴に向けた大きな助力となりますが、弁護士費用を惜しんでいい加減な示談をまとめると本来の効果が発揮されません。
示談交渉は刑事事件の示談を得意とする弁護士にちゃんと依頼して適切に進めてもらうのが何より肝要です。