加害者本人が被害者と交渉することはできますか
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被害者の了解が得られれば可能です。ただし普通は拒否されます。法律の素人が勝手な考えで示談を試みたことで事態が悪化した例もあります。
詳細な回答
日本で制限なく法律事務(裁判や法的な交渉等)を行うことのできる資格は「弁護士」のみです。
「司法書士」は140万円以下の民事事件の交渉や和解を代理することはできますが、刑事事件を担当することはできません。
「行政書士」は本人に代わって書類を作成することはできますが、民事であれ刑事であれ本人を代理して交渉することはできません。
つまり、加害者本人以外で被害者と交渉できる有資格者は弁護士のみということになります。
では加害者本人やその家族は被害者と示談交渉することができるのか。
これに対する回答は「一応可能」となります。
より正確に言うと「可能は可能だが現実的には不可能に近い」です。
例えば事件まで被害者と加害者に面識がなかった事件。
・デパートで女性客のスカート内を盗撮した
・混雑した通勤電車内で女性に痴漢をした
・繁華街で通行人と喧嘩して傷害を負わせた
こういうケースではそもそも被害者の連絡先が不明です。
被害届の提出等で捜査が開始した後に警察を通じて連絡先を教えてもらうしかありません。
加害者本人が警察官に
「示談したいので被害者の連絡先を教えて欲しい」
などと言ってもよほど緩い警察署でない限り、
「加害者本人に被害者の連絡先は教えられない」
と返されて終わりです。
仮に警察官から被害者に
「加害者本人にあなたの個人情報を伝えてよいか」
と聞いてくれたとしても被害者がこれに応じることはまずありません。
それまで全く面識のなかった相手、それも自分に対して加害行為に及んできた得体の知れない相手に自分の連絡先や住所や名前といった個人情報を伝えるなどリスクの塊でしかありませんし、加害者本人との交渉など被害者にとって負担でしかないからです。
窓口に立とうとするのが加害者の家族や知人であっても同様です。
被害者からすると所詮は加害者側の身内、それも単なる素人でしかないのですから安易に信用などできるはずがなくて当然です。
弁護士が加害者の代理人となったケースでも
「自分(被害者)の個人情報は絶対に加害者本人には伝えないでください」
と釘を刺されることが珍しくありません。
刑事事件の被害者はこのくらい加害者(側の人間)に対して強い警戒心を抱いているのが普通です。
一方、事件前から被害者と加害者が知り合いだった事件。
・友人と口論になり手を出して傷害を負わせた
・SNSに元交際相手の名誉を棄損する投稿をした
・職場の同僚に対して強制わいせつ行為に及んだ
・サークルメンバーの財布から現金を窃盗した
こういったケースでは加害者が被害者の連絡先を元々知っていたり、電話番号は知らなくても簡単に接触できたりします。
ですが考えてもみてください。
加害者と被害者という関係ができた時点で従前の人間関係は破壊されているのです。
「被害者とは長い付き合いでよく知っている仲だから」
「元カレなんだから話くらいは聞いてくれるはずだ」
深刻度が伝わるように敢えて言葉を選ばず言うなら、こんな能天気な考えを抱いているのは加害者だけです。
むしろ元々知り合いであった方が被害者の加害者に対する嫌悪、怒り、恐怖は強まる傾向にあります。
被害者が加害者本人との示談交渉に応じてくれる事例があることは否定しませんが、極めて稀なケースでしかありません。
示談交渉に当たる弁護士からすると、素人である加害者本人やその家族が散々かき回した後に
「自分たちでは駄目だったので示談をお願いします」
と言われても時すでに遅し、状況は最悪レベルに落ち込んでいて手の施しようがないということもあります。
どの分野でもそうでしょうが、余計なことをまだ何もしていない状態というのがプロにとって一番仕事に取りかかりやすい状態です。
刑事事件を起こして示談交渉を考えているということであれば、まずは当事務所にご相談ください。
ここまでは「示談交渉をスタートさせる段階の話」です。
示談交渉を開始できたとしてもまだ問題は残っています。
仮に、たまたま被害者がとても理解のある人で加害者との直接交渉に応じてくれて、示談の話がまとまったとしましょう。
被害者に一定額のお金を渡しただけで、それで「示談が成立した」とは言いません。
インターネット上で拾ってきた適当な契約書式を使って合意書のようなものを作成したとしても同様です。
刑事示談交渉の専門家である弁護士からすると、
・被害者の心情に配慮して丁寧な交渉を心掛け、
・被害者の意向も踏まえて示談の条項を検討し、
・刑事上の有利な効果を得るための条項を入れ、
・民事上の問題も清算して今後の紛争の芽を断ち、
・合意書を取り交わして約束した示談金を支払い、
・交渉の結果を検察官に報告して処分を確認する。
ここまでやって初めて「示談をまとめることができた」と言えるのです。
この点に関して、かつて当事務所に持ち込まれた事案を紹介します。
【ケース1】
加害者が被害者に直接示談の申し入れを行い、被害者はこれを了承。
加害者が被害者にお金を払い、警察署に示談成立を報告したところ、
「示談書は。書面がないと示談内容を確認できないではないか」
と言われ、慌てて弁護士のところに駆け込んで改めて示談を依頼した。
【ケース2】
加害者本人が被害者と示談交渉を行い、最終的に示談は成立。
弁護士のアドバイスを受けて正式な合意書も作成した。
ところが加害者は「示談が成立した」ということを検察官に報告しなかった。
そのため検察官は示談成立を知らないまま起訴の処分を下した。
いずれも
「最初から弁護士に依頼していれば不起訴になったはず」
と言える事例です。
加害者自身が交渉することで弁護士費用を節約することができたとしても、結果として本来回避できたはずの刑事罰を受けることになったのでは何にもなりません。
相応の弁護士費用をいただいていることにはちゃんとした理由があります。
被害者にお金を渡してしまった後、起訴の処分が決まってしまった後ではどうにもなりません。
自分たちで勝手に示談を始めてしまう前に、一度当事務所にご相談ください。