保釈とはどういうものですか
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起訴された「後」に保釈保証金を裁判所に預託することで身柄拘束を一時的に解いて釈放してもらう手続のことです。
- (A)権利保釈(刑訴法89条
- (B)裁量保釈(刑訴法90条)
- (C)義務的保釈(刑訴法91条)
詳細な回答
「保釈」は一定額の保釈保証金を預託することで身柄拘束を解いてもらう手続です。
言葉としてはよく知られた手続ですが、一般の方でその要件を正しく理解している人はほとんどいません。
一番多い勘違いを最初にお伝えしておくと、
保釈が可能になるのは起訴された「後」です。
起訴される前に保釈の手続を取ることはできません。
大事なことなのでもう一度言います。
保釈は起訴「後」に検討が可能となる手続です。
起訴「前」の保釈は制度上絶対にあり得ません。
保釈は、「逮捕」されて、10日~20日間の「勾留(被疑者勾留)」をされて、起訴されて更に「勾留(被告人勾留)」されているという状態になって初めて検討可能になる手段です。
起訴前勾留(被疑者勾留)の段階で身柄拘束を解くには「準抗告」や「勾留取消」といった別の手段を検討することになります。
逮捕の段階では身柄拘束を解く法的な手段(不服申立)がそもそも用意されていません。
逮捕状態からの解放を目指して何か取れる手段があるとすれば、誤認逮捕であるとか逮捕する必要がないということを捜査機関にわかってもらうように説明することくらいです。
予約受付や法律相談の際に
「家族が逮捕されました、保釈の手続を取ってください」
という要望を出される方が結構いるのですが、
起訴『前』の保釈は制度上(法律上)不可能
なのでこの点ご理解ください。
保釈には次の三種類があります。
(A)権利保釈(必要的保釈)は被告人の権利として認められている保釈です。
保釈の請求があった場合、一定の除外事由に当たる場合を除いて、保釈を許可しなければならないとされています。
除外事由は以下のようなものです。
・被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
・被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき
・被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき
・被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
・被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき
・被告人の氏名又は住居が分からないとき
一定の重大犯罪に当たる場合や重い前科持ちである場合、罪証隠滅や証人威迫のおそれがある場合、住所や氏名がわからない場合(=逃亡の危険が高く逃げた場合に身柄確保が困難)、このいずれにも該当しないときは保釈請求すれば原則として保釈が認められる、ということです。
ただし、社会的な関心が高いとか逃亡の恐れが高いとかで裁判所が保釈を認めたくない場合には、何かと理由をつけて
「罪証隠滅に走るおそれがある」
「証人威迫の危険を否定できない」
として保釈請求が却下され続けるという事態が発生することも珍しくありません。
(B)裁量保釈は裁判所の裁量として認められる保釈です。
「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるとき」
に裁判所が職権で保釈を許可することができる、とされています。
例えば、権利保釈の除外事由に該当するけれども、諸般の事情を考慮するなら保釈を認めてあげてもよいのではないか、と裁判所が考えたような場合にこの裁量保釈がなされることがあります。
(C)義務的保釈は義務として肯定される保釈です。
「勾留による拘禁が不当に長くなつたとき」
に裁判所は勾留を取り消し、または保釈を許さなければならない、とされています。
実務上これが認められたケースはほとんどありません。
保釈が許可される場合には「保釈保証金」の額も同時に定められます。
保証金の額は
・犯罪の性質及び情状
・証拠の証明力
・被告人の性格や資産
といった事情を考慮して、「このくらい預けさせておけば逃げないだろう」という金額が設定されます。
罪名や事案の内容、被告人の経済状況に左右されるので一概には言えませんが、
盗撮や痴漢(迷惑防止条例違反)、窃盗といった犯罪なら150万円~200万円くらい
強制わいせつで200万円~250万円くらい
強制性交等で300万円くらい
が目安になるという印象があります。
被告人が裕福な人間であれば保釈保証金の額はその資産状況に応じて跳ね上がります。
例えば日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告人は合計15億円の保釈保証金の預託を求められました。
同被告人はその後結局逃亡しているので、この金額でも逃亡を防ぐには不足していたということになりますが。
保釈の許可決定が出て、定められた保釈保証金を預託すれば身柄は釈放されます。
このときに被告人の住居を一定の場所に制限する等の条件がつけられることがあります。
保釈された後は指定された条件をきちんと守り、いくつかの禁止事項を犯さないようにして、公判期日に出頭しなければなりません。
保釈された被告人が守るべきルールは以下のようなものです。
・裁判所から呼び出しを受けたときはちゃんと出頭する
・逃亡したり逃亡を疑われるような行動をとらない
・罪証を隠滅したり罪証隠滅を疑われるような行動をとらない
・被害者や証人、その親族等の身体や財産に危害を加えようとしたり畏怖させたりしない
・住居制限その他の裁判所が決めた条件を破らない
これらのルールを破ったときは保釈が取り消されて再び身柄拘束され、預託していた保釈保証金の全部または一部が没収されます。
刑事訴訟法
第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
② 第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
第九十一条 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。
② 第八十二条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。第九十二条 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
② 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。第九十三条 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
② 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
③ 保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。第九十四条 保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
② 裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
③ 裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。第九十五条 裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。
第九十六条 裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
② 保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で保証金の全部又は一部を没取することができる。
③ 保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。